昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

ミジンコって何やねん、てお前は知らんのか、あの中学生んときに習う微生物のぴっこらぴっこら動くやつやんか。

お前の方や。ミジンコより何より、うちが理解できんのは。

まだ「冗談やろ」って、そうやって笑おうとしてうまくいかんかった。

顔引きつった。


だってかっちゃん、今までに見たことないくらいめっちゃ真剣な顔しててん。


うちの左手首を抑えつける手のひらに、ぎゅうって力が入る。


「─────っ、」


ほんま、ほんまちょっと今になって怖くなって。


「か…っちゃ、」


なんか言い終わるその前に、いきなり真下でビィッて音がする。

肌に触れる空気の密度が増す。


気がついたらかっちゃんの手が、ウチのジャージの上着チャックを下ろしてた。



…下ろしてた、やない。



「んぎゃ───!!やめろこのドアホマジでない!!本気でないからッ!!」

「色気ない声出すなや…萎えるやんけ」

「〜萎えろ!!そして二度と機能せんかったらええねんっ!!」


これでもかゆうくらい思いっきり暴れる。

ズッタンバッタン、なんかが落ちる音と倒れる音、でもそんなんゆうとる場合やない。


まさに死闘。

前にテレビで観たオリンピックの柔道戦を思い出した。

ウチの両手首を押さえにかかるかっちゃん。かっちゃんも若干必死な顔。

かつて、すんごい昔に二人でプロレスごっこした時にカブるんは気のせいですか。色気もなんもあったもんやない。

つーかあってたまるかい!


うちが足をジタバタさせておもいっきし抵抗したら、じれたかっちゃんがなにを思たんかまさか、


ウチの首筋に、噛みついた。


「〜い…っ!?」


…うん、噛みついてん。ガブって。本気で噛みやがってん。信じられへん。


信じ、られへん。


「〜っ死、ねッ!!」


…こんなに力いっぱい人に死ねってゆうたん初めてや。

し、と、ね、の一文字ずつに怨念その他の恨みつらみがこもってる。

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