昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

降ってきたかっちゃんの声は、左耳からしか入らんくて。

下敷きんなった右耳は、やけに熱くて機能してへんかった。


心臓のおとが、ドクン、て聞こえる。


「電話してな。まさるくんのこと好きやけど、今は会えへんって言われてん」

「……そう、なんや…」


カラカラんなった口から出てきたんは、そんなセリフでしかなかった。

サラッと言い切ったかっちゃん。

好きやけど、会えへん。それはさくらちゃんの気持ちやろ。


…かっちゃんはどうなん?

かっちゃんはそれでエエん?


聞きたいけど、聞きたくなかった。

知りたいけど、知りたくない。だって。


あのエロ魔神のかっちゃんが今までずっと我慢してて。

やのに自分から別れへんねん。もうええわとか言わへんねん。


それってよっぽど、さくらちゃんのこと大事に思っとるってことやろ?


「ゆうさぁ、土曜日とかヒマ?」


かっちゃんが手を止めて、ウチの顔を覗き込んだ。

鼻先が近くて、かっちゃんの匂いが、ずっと濃くなる。


「遊園地行かへん?」

「ゆ…遊園地!?」

「うん。さくらと冗談半分でハガキ出したら券当たってもてなぁ。今週までの期限あるし、さくらとは行けへんやん」


かっちゃんとさくらちゃんが二人、仲良さそうに雑誌を見ながらハガキを書いとる姿が目に浮かぶ。

それがめっちゃお似合いで、自分で想像してビックリした。


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