昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

アカンアカン、耳の中くすぐったい。

自分でやると平気やのに、人にやられるとアカン。

こそばゆさに身をよじると、かっちゃんが頭の上から「うわっ」とか変な声出した。


「…なんですか」

「あ、ごめん。頭動かさんといてヤバいから」

「なにが」

「いや、頭の場所的に」

「………」


…この状況で発情できるとか、尊敬するわ。

ある意味。



耳を人質にとられて、頭まで動かせんとなったら。

ウチに残された選択肢は、ただ黙ってかっちゃんの膝に頭をもたげるしかない。

でもどうしてもこそばくて必死で唇噛んで耐えてたら、かっちゃんがフッて笑った。


「ゆうって耳弱いねんなぁ。知らんかったわー」

「…っ、ほんまいっぺん車にでもひかれてきたらええわ…!!」


いや、いっそ新幹線に跳ね飛ばしてもらえばいい。

この状況やなかったら、零コンマ三秒で頭叩いてんで。


かっちゃんは楽しそうにくつくつ笑て、ウチが耐えるのを見下ろしとる。


「あー…。ゆうとおったらほんま落ち着くわぁ」

「………」

「女の子は可愛いし触っとって気持ちいし、好きやけどなぁ…疲れんねんて」


かっちゃんの声が上から降ってきて、すんなりウチの耳に落ちていく。


「いっつも気ぃつこて、機嫌とって。触るんも優しーにせなアカンやろ」

「…ウチかて女の子なんですけど」

「あ、そうやったん?」

「…ホンマそろそろ殺すで、かっちゃん」


殺人予告しながら、いろんな気持ちが一気に押し寄せてくるんに耐えた。

嬉しい。落ち着くって、かっちゃんにとって特別みたいで。

苦しい。ウチはかっちゃんの優しーにしたい対象やない。


めっちゃ、苦しい。


優しく触れられなくても、きっとウチは…かっちゃんが好きやから。



「…あんな。」

「うん?」

「さくらとは、距離置くことんなった」


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