昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜


「ゆう、来い」

「は?」


気がついたら、いつの間にかかっちゃんはベッドから降りとった。

ウチの正面に正座して、自分の膝をパンパン叩く。


「え…え?なに?」

「やから来いって」

「や、意味分からんし」

「耳かきしたるゆうとんねん」

「みみ……、はぁ!?」


真顔でそんなこと言い出すかっちゃん。

ますます意味分からん。

なんで耳掃除。おかしいやろ、話の流れ的に。


「なんでいきなり耳かきやねん」

「いや、まだ怒ってんのかな〜て思て」

「はい?」

「いや、ここ来るまでに色々考えてんて。謝っても許してもらえんかったらどうしようかなーて、な」

「………」

「お詫びにメシおごるんもええけど、金ないからアレしか買えんかったしなぁ」


…30円のやつですか。

アレしか買えんかったって、ホンマ金ないねんな。


「やから、ゆうにできることゆうたらそれくらいしかないやん」


俺得意やねん。そう言うてかっちゃんは床に正座したままポンポン、て自分の膝を叩く。

ウチの意見も聞かんと。なんかやる気満々やし。


「…え、嫌やし」

「何でやねん」

「かっちゃんなんかにウチの耳預けたないし」

「耳くらい預けろや。やからぁ、俺結構うまいんやって」

「預けへんわ」

「預けようや」

「預けたないって──って、うわっ!?」


かっちゃんに腕引っ張られて、無理やり膝に寝かされた。

肉の薄いかっちゃんの太もも。

打ちつけた片っぽの耳が痛い。


なに。

おかしいやろ、このシチュエーション。


「かっちゃ…!!」

「アカンでー。動いたら棒が耳に刺さんでー。」


いつの間にかかっちゃんの手に構えられとった耳掻き。

その切っ先が耳に当たって、ウチを脅す。


…耳、人質にとられるとか。


「あーもう……っ、ちょっ、」

「なに?」

「…ふっ、こ…こしょばい……っ!!」


.