…う、わ。
なんか掴まれた、体のどっか、銛でひと突きや。
床についたままの膝が、全然動かへんくて。
いつから?いつからこんな緊張してまうようになったん。かっちゃん相手に。
かっちゃんを好きって自覚したときから?それまでよー普通にしてこれたなぁ、ウチ。
自分でも気づかんかった、せやのに風間が余計なことするから……
て、風間。
『好きやねん』
脳裏に舞い戻ってきた風間のセリフ。
かっちゃんの手がウチの頬に伸びてきたんは、それと同時やった。
「────!?」
思わず大げさに肩が跳ねる。
かっちゃんの眉間に、ちょっとだけシワが寄った。
「…ほっぺた、カレーついてんで」
「え…えっ、あ〜…あ、そっか…」
「…別になんもせぇへんやんけ」
かっちゃんは続ける。ゆうが、言い出したんやろ。
「彼女おるときは、かっちゃんの相手せぇへんって」
心の中に、ズン、て小さい何かが落ちた。
小学生ん時理科の実験で使ったことある、分銅やったかな?あれくらいの。
…"彼女おるときは"。
かっちゃんの彼女は、相変わらずさくらちゃんで。
旅行ん時は結構修羅場ってたけど、きっとウチの部屋に来る前に、さくらちゃんにもう会いに行ってんな。
そんで仲直りしてきてんな。
べつにあのまま別れてまえばいい、とか。そんなん思てたわけやない。
思てたわけやないけど、心ん中は複雑で。なんで複雑なんかわからへんから、余計に苦しかった。
こんなん、ウチが欲求不満みたいやん。ウチばっかり意識しとるやん。
かっちゃんに触れてほしい、て。期待してもてるみたいやん。
なんで。
…なんで。
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