いや。

…いやいやいやいや。


トキン、て何自分。なにかっちゃんにときめいてんの。

カレー焦げるし、火ィ止めな…って間違えた、こっちに回したら火力強なってまうやん。


「なぁ、ゆう」


一人でアワアワしとったら、後ろからムカつくほどのんびりしたかっちゃんの声が聞こえた。


「なぁ」

「…ちょっと黙っといてか」

「なんで怒ってんねん…。」

「………」

「…なぁって」

「………」

「なぁ」

「………」

「こっちこおへん?」



お玉持ったまま、固まった。


振り返ったら、ベッドに埋もれて半分になった顔でこっちを見てるかっちゃん。

カレーがお玉の棒のとこ伝って、手に垂れる。熱い。


こっちこおへん?…て。


こっちに来ませんか?ってことやんな。いやいや、標準語に訳してどうすんの。


「………なんでそっち行かなアカンの」

「ええから来てって」

「…今用意しとるんですけど。カレー食べたいゆうたやんけ」

「カレーは後でも食えるし」

「…今食うとかないつ死ぬかわからんで」

「ゆうに殺されん限り生きとるわ」

「………」


どんだけ凶暴やと思われてるんですか。


一向に動かんウチを見て、かっちゃんがちょっとムッとした顔して寝返りを打つ。

黒い後頭部がこっちを向いてる。


短い髪の毛がツン、て尖った、かっちゃんの頭。


「……なによ」


しゃーないから、ベットのそばに近づいてしゃがんだ。


かっちゃんからは、かっちゃんの匂いがした。


「…ていうかな、俺腹いっぱいやねん」

「は?じゃあなんでカレー食べたいとかゆうてん」

「だって、」


かっちゃんの目が、耳が、鼻が、口が。

全部こっちを向く。ウチの方に、向けられる。


「…そう言わんとゆう、部屋入れてくれへんやろ」


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