――そう。
初めから、そこにないものであったならば、別にそれらを求めたりなんかしない。
焦がれて、この手を伸ばしたりもしない。
だけど、ごく自然に、当たり前に、この手の中にあってしまったものだから。
私達は、自分達の世界を創る、些細なものたちを、両手いっぱいに抱え込んで生きるのだ。
そして、私にとっての、君の存在もそうだった。
屈託のない君の笑顔に心を奪われて、
些細な君の仕草に気付いてしまって
何気ない君の優しさに心を揺らしてしまったから……
私は、君を見つめることを、当たり前に在る、世界の一部にしてしまった。
手に入れたい……
なんて、そんな大それたこと、望んでいたわけじゃなかった。
多くを願っていたわけじゃない。
ただ、ひっそりと静かに、君を見つめていたかっただけなんだ。
けれど、そのうちもう少し欲が出てきて、
太陽の下で笑い合うこと、
肩を並べて歩くこと、
君の瞳が、私だけを特別に映すこと……
そんな愚かで、重大な未来が、
いつしか、胸の奥底でくすぶっていたんだ――

