私は、そっと小さく一息吐くと、彼の隣をすり抜けて、いつも彼を追っていた机の前に立つ。
雨粒で滲んだ窓の外に広がる、見慣れた景色を一瞥して、
私は、机の上でポツンと置き去りにされていた、小さな飴玉を握り締めた。
本当……
バカみたいだ。
私を映しているはずの彼の瞳の奥には彼女が居て、
彼の胸を支配しているものも彼女一人で……
今、彼が求めているのは、私の慰めでも、温もりでもない。
こんなにも容易く気付けるのに。
そんなこと、彼を見ていた、ずっと前から知っていたのに。
彼にとって女の子は、あの子だけだってこと――
ギュッと手の中で、飴玉を握り締めて、私はどんより重い空気を、大きく吸い込む。
皮肉かもしれないけれど、彼が力をくれているような気がした。
「そんなことより……彼女のこと、追いかけなくていいの?」
彼の笑顔が、歪む。
自分でもわかってるでしょ?
あの子のことになると、君はこんなにも、心を揺らすんだってこと――

