……それは、私が君の世界に関係のない存在だから。
全然何も知らない人の方が、かえって自分の気持ちを話せてしまえたりすることがある。
何も知らないからこそ、自分の正直な想いを、ぶつけられたりする時もある。
そんなものなのだ。
彼から突きつけられた現実で、目が覚める。
図らずも唐突で、それでいて、紛れもない事実だった。
私は、彼の物語の登場人物にはなれない。
彼の瞳に映る女の子は、私じゃない――
「岡本さん?それは……どうしたの?」
私の心の中なんて、何も知らない彼は、さっき私が言いかけて止めた言葉の続きを、穏やかに待っていた。
なんてことない。
ガラス一枚で仕切って、彼を見つめていたいつものような気持ちで、もう一度彼と向き合ってみたら
目の前の彼は、苦しそうで痛そうな顔を、笑顔の中に押し込めていることに気付く。
遠いと思っていた彼が、今まさに、ほんの少し勇気を出せば、触れられる距離にいる。
だけど、ついさっきまで、すぐ傍に感じられた彼の存在は、
そんな簡単なことに気付いてしまったら、みるみるうちに遠ざかっていった。

