想うのはあなたひとり―彼岸花―



まさか、そんな。
誰かに嘘だと。
誰かに夢だと。


言って欲しかった。



私はしばらく思考が停止していた。
光る銀色ナイフからぽたぽたと赤い血が垂れていく。
それはフローリングの床へと落ちていった。


何も出来ない。
倒れる母親に近づくことも。


私は最低だった。
この血を見て「自由になった」と思ってしまったのだから。




「椿…なんで…」




やっと出た言葉に力はなかった。
すると椿は銀色ナイフを手から離してこちらに向かってきた。不思議なことに恐怖はない。
母親を刺した犯人を愛しく思ってしまう。




「妃菜子が言ったから…」



「え…?」




「俺と二人だったら幸せだって…だから妃菜子を自由にしたくて…妃菜子を傷つけてる人間を消したんだ…」






椿は最後まで優しかった。
私を母親から守ってくれたのだから。