想うのはあなたひとり―彼岸花―



私が嫌いなのなら、何故産んだの?
少しでも「生まれて欲しい」と思ったからでしょう。
私にこの世界で生きて欲しいと願ったからではないの?

憎いのなら、いっそのこと生まれてこなければよかった。

お母さんのこと大好きなのに。
だから暴力にも耐えてきたんだよ。
何でわかってくれないの?


大好きだから、殺せないよ。
でも、一度考えたことがある。
もし母親を殺したら私は自由になるのかなって。
椿と幸せになれるのかなって。
包丁を目の前にして、ぼんやりそんなことを考えたときがあった。

私は臆病だ。
母親を殺すなんてできなかったのだから。


「何か言いなさいよ!私が嫌いならあんたが消えなさい!!」


降りかかる暴言。
今目の前にいる人は本当にお母さんですか?

夢だよね、夢だよね。
だって、今日はお母さんの誕生日でしょ…。
目をギュッとつぶり、今の現実から逃げた。


もう一度目を開けると、先ほど息絶えた彼岸花と目が合った。
流れる涙。


私は幸せになれないのでしょうか。


「やめてよ…。もう…いやだよ!!」


この時初めて母親の顔をまっすぐ見た気がする。
涙で歪んだ視界の先には、生きているのがやっとの人間がいた。