想うのはあなたひとり―彼岸花―




「じゃあね」と去っていく椿。
そんな彼の背中を見るめながら、浮上した疑問をそっと心の中にしまった。



「ただいま…」


小さな声を出して、家に入っていく。
本当は帰ってきたくなかったけれど、未成年の私には何もできない。
中に入るとやはり真っ暗。
外が暗いせいか、さらに暗く感じる。

荒れた廊下を進んでいき、リビングへと向かう。
空いたドアの隙間から覗くと、テレビの明りで浮き出た母親の横顔が映った。
ぼさぼさの髪の毛に、片手にはビール缶。
そんな母親を見て、溜息が洩れたのは言うまでもない。


「妃菜子?あんたいるの?」


死んだ魚のような目がこちらに向いてくる。
背中に寒気が走った。


勇気を出して、一歩リビングに足を踏み入れる私。
後ろに彼岸花を隠して。


「遅かったわね。買ってきたの?酒」


あなたは娘に「おかえり」も言わないのね。



「お母さん、あのね…。今日お母さんの誕生日だよね?だから…」



震える手を両手でしっかりと握り、彼岸花を母親に差し出した。


暗闇に映る赤い花。
奥ではテレビのまぶしい光。


私の脳裏にはまだこの光景が焼き付いている。



それは、とても不気味だった。