その瞳は遊び飽きた黒猫のようだった。
何かに失望し、消えてしまいそうな表情だった。
私が皐とキスをしたことは椿を裏切っていること。
間違ってはいない。
むしろ当たっている。
でもでも…私の話を聞いてよ。
聞いて欲しいけど言えない。
だって臆病だから。
「そんな…そんなこと言わなくたって…」
「じゃあ何でしたんだよ?別に俺のことなんか好きじゃないんだろ?俺は好きな人にしか触れて欲しくないのに妃菜子は誰とでもキスできるんだ?」
吐き出される言葉は次々と私の心を刺していく。
ぐさり、と刺さった針は抜けずにそのまま。
血すら出ない。
「…ごめん」
「謝るなら最初からしないでよ。まぁ最初は俺が無理矢理したんだけど。俺は妃菜子とキスできて嬉しかったのに」
はぁ、と溜め息をついてその場を立ち上がる皐。
それはまるで子供が拗ねたようだった。


