なぜ私はこの時「椿に会いに行く」と言わなかったのだろうか。
自分でも分からない。
なんでこんなにも胸が痛いの?
靴を履き替え、グラウンドへ飛び出す。
反射する砂が私の瞳を輝かせた。
グラウンドにはさまざまな人たちがいた。
部活をやる人。
広がる声が青春を感じさせた。そして皐に振り返る人。
3秒見つめては、皐を見ながら隣の人と会話をする。
やっぱり皐はかっこいいのだと改めて思わせた。
きっと明日から皐のファンは増えるだろう。
「妃菜子ちゃんは次の駅で降りるの?」
ガタン、ゴトン。
夕方の電車は比較的空いていた。
昨日は混んでいたのに。
時間帯が違ったからかな。
「あ、うん。次の駅だよ」
「そうなんだ。あたしは次の次の次の。もうすぐバイバイだね」
「俺も小絵と同じ駅。えっと皐は?」
弘樹は目を閉じていた皐に話しかけた。
皐はゆっくりと目を開けた。
「妃菜子と一緒。」


