犯人に向けて言った。
すると犯人は立ち止まり、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
犯人は意外と若かった。
20代後半だろうか。
虚ろな目で俺を見て、次の瞬間不気味に笑ったのだ。
犯人がそれ以上することはなかった。
無力な俺はただ、唇を噛み締めることしかできなかった。
もし俺に勇気があったのなら。
俺は真っ先に犯人を殺すだろう。
世界は俺を裏切った。
神様は俺を見放した。
だんだん冷たくなっていく奈月を俺は強く強く抱きしめる。
涙でぐしゃぐしゃになった世界を恨みながら。
一秒でも奈月に触れたかった。
「刑事さん、後ろ向いててもらえますか?」
俺はそう刑事さんに言い、ずっとしたかったことをした。
冷たくなった奈月の唇に自分の唇を押し当てたんだ。
「…ずっとしたかったんだ…」
奈月の唇は柔らかくてマシュマロみたいに溶けてなくなりそうだった。
俺たちは最初で最後のキスをした。


