今でも忘れない。
アイツの存在を。
アイツの最後の言葉を。

ごめんな、守ってあげられなくて。

でも俺はお前を…

心から愛していた。





俺の名前は美波皐。
ちなみにこれは母親の旧姓。
昔の名字は覚えていないんだ。
物心つくときからずっと美波だったから。
なぜ気付いたかって?
それは幼稚園の運動会の親子リレーのときに、俺だけ母親だったから。
不思議に思うでしょ?
その日の夜、母親に聞いたら「皐には父親がいないのよ」って言われた。

俺はずっと母親の存在しか知らなくて、いきなり父親の存在を明かされてもどうにも思わなかった。

だって母親がいたから。
寂しいなんて感じなかった…はず。


母親を悲しませたくなくて“いい子”を演じるのは大変だったけどね。


仕事でしょっちゅう家を空ける母親に文句さえ言えなかった。

母親は弁護士をしている。
そのため小学生から中学生の間で11回もの転校を繰り返した。