「マリー、もうちょっと話していたいけど、そろそろいかなきゃいけないみたいだ」



男はそういい、マリーにすっと近寄ってきた。


そして避ける間もなく、頬に唇を落とした。



「なっ!」



驚きで固まるマリーにふっと笑みを見せ、そのまま男は去っていった。


な、な、なに今の…


マリーは男との別れに妙な既視感を覚えつつ、頬を押さえて呆然としていた。


辺りには、存在の騒がしかった男が去ったことで静けさが戻る。


しかしーー



ドッドッドッドッ



遠くから、何頭もの馬が駆ける音がしてきた。


マリーははっと我に返ると、視線を街の向こうに転じる。


遠くに、砂ぼこりがたっているのが見える。


きっと兵士が戻ってきたんだ…


マリーはそのことをシリウスに知らせるため踵を返し、もと来た獣道を下っていった。