廊下を歩く音にドキッと硬直する身体。


障子戸から顔を覗かせたのは、まだ顔を合わせたことがない青年だった。


じっと見つめられる。


「なにをジロジロ見とんねや」

「……え……いや……」


先に見てきたのは貴方じゃないですか、と言えずにいる矢央の前に青年はお膳を置いた。


「副長が頃合いをみて持って行け言うた朝食や。 起きたんなら、さっさと食うてまえ」


今までの人とは違う風変わりな口調に矢央は首を傾げる。


いったい誰だろうか。

その視線に気付いた青年は、長い前髪を揺らし矢央に向き直る。


「そういやぁ、初対面やったなぁ。 俺は諸士調役兼観察の山崎丞言うもんや」

「山崎さん……」


また新しい人に出会ってしまい、名前を覚えるのに一苦労する。


山崎丞(すすむ)は細身でキリッとした切れ長の目をしたキツい感じの男。


長めの髪と品の良さから女性らしさも感じさせるようで、矢央は興味深く山崎を見つめた。


「男性ですよね?」

「壬生浪士に女子はおらん」


口数も少ないようだ。


「早よう食うてまい」


お膳に乗せられた食事をすすめられたが、食欲がなく矢央は溜め息を吐く。

その様子に山崎も溜め息をついていた。


「副長が心配してはった。
あんたのことよぉしらんけど、副長からは大切な客人やとお伺いしとる」


大切な客人。

その言葉を、何故か素直に受け取れない。


「なんや事情があるんやろ。 やけど、あんたが食わんと心配する人らがおりはるんや……一口でもええさかいに食うたれ」


「……そうですね」