暖かい風が髪を撫でていく。


屯所内は早朝から騒がしい。

朝一に掃除が始まり、朝銷を取り、巡察組みと朝稽古組みに別れる。


今は丁度朝稽古中で、少し離れた場所にある道場からは隊士達の威勢の良い掛け声が耳を通っていた。


与えられた八畳一間には矢央の布団だけ敷かれたままだ。


腕を負傷し、精神的にも回復していない矢央は布団の中から庭を見つめていた。



昨夜沖田の語った過去は矢央の心に深い傷を残した。


知っていたとはいえ、あまりにも衝撃的すぎた過去。


お華の無念の想いが心を支配していく。


「………ハァ……」


沖田はあの後、何も言わず夜が明けてもいないのに部屋を出て行ってしまった。


朝になっても沖田が顔を見せることはなく、次々に起床した隊長達も部屋を出て行き、寝たフリをしていた矢央も今し方布団から身を起こしたところだ。