「矢央ちゃん、何もそんなに切らなくてもさぁ」


勿体ないと嘆く藤堂に、切った髪を片付けながら矢央は言った。


「これから暑くなるし、さっぱりしていいんです! でも、これでみんなの方が長くなっちゃいましたね」


あははと陽気に笑う矢央にはホッとするが、やはり女子が短髪というのは。


「綺麗な髪だったのに、女子なのですからもう少し残しても良かったでしょうに」

「私の時代では、これくらい普通なんですよ。 山南さん」

「そうなのですか? いや、でも…」

「それに、此処では私一応男子としているつもりだし、髪なんてどうでもいいです」


男所帯で暮らす以上、女子らしさはない方が良いのは確か。

しかし、山南は矢央に女子を捨ててほしくはないと思った。


そんな山南の隣から、パンパンと拍手が起こり、今度は皆そちらを振り向く。

何かと見れば、近藤が感激したとばかりに盛大に拍手しているではないか。


「いやはや素晴らしい心構えだ! 新撰組隊士として、女子を捨てるなんて立派なこと」

「捨てたつもりはないけど…」


と、小さな呟きは届いていない。


「その調子で鍛練も怠らす、今まで以上に新撰組に尽くしてくれたまえ」

「は、はあ……」


その場の空気が読めないまま、近藤は気分良く去って行く。

その後を追った土方は、一瞬だけ申し訳なさげに目を伏せた。

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