打ち首となり、その傷だらけの顔は晒し首となる。


龍馬も矢央も、その場には居合わせることはなかった。




もう一度、君に会えたら言おうと決めていた。


"おまんが好きだ"と。

叶うことはないと知った恋心が、唯一拷問を耐える力となっていたかもしれない。


しかし、武市に裏切られたことの傷はあまりにも深く、このまま拷問を耐え続ける力は日毎に消え去っていったのである。



矢央が以蔵の死を知るのは、それよりも後になり、死を知ってから数日泣き暮らした。


龍馬が何とか知らせに来てくれたことに感謝しながら、空に向かい祈った。



どうか、どうか次の世では幸せになれますように――と。


そして、ごめんなさいと。




最後まで会いたくて仕方なかった二人に会うことなく、孤独に死にざるえなかった以蔵。

だが、晒し首された以蔵の表情は意外にも穏やかだった。


以蔵の生涯は幸せだったとは言えないが、それでも小さな幸せを見つけたのも確か。


最後に、間島矢央という歴史には残ることのない少女に出会えたこと、彼女を想い死ぬならば己の一生に未練はない。



そして、少女のおかげで荒んだ心は癒やされ誰を恨むこともない。







『いつか故郷に帰れるなら、矢央はついてくるがか』

『はい。 いつか、連れて行ってくださいね』

『おお…』

『じゃあ、約束です』


初めて交わした指切り、叶わなかった約束。


照れながら己の指を見つめていた以蔵を、矢央は忘れることはないだろう――――







「いつか、土佐に会いに行くからね」

悲しみを払い、矢央は新たな約束だと空に小指を伸ばしていた。


晴れ渡る空に、以蔵のはにかんだ笑みが見えたような気がした。


これは、まだ一年以上も先の出来事である――――



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