「土方さん、少しは俺たちを信じてくれよ」
皮肉を込めた笑いに、土方は眉を寄せ永倉に視線を移した。
「何かあった場合のことは、ちゃんと考えて動くさ。 それに、あれだけ働いたんだ、ちぃったぁ娯楽があってもいんじゃねぇすか?」
「永倉……」
永倉の後押しと、矢央のすがるような視線に、
「…わかった。 だが、飲みに行く店は山崎に報告してから行くように」
鬼の副長は、折れた。
永倉の言うように、息抜きも必要だろう。
そして、彼らなら大丈夫だろうと信じることにしたのだ。
土方からの許可が出ると、矢央は満面の笑顔で喜んでいた。
「やったぁ! 土方さん、ありがとう!!」
「どわっ! 一々抱きつくんじゃねぇっ!」
悪態つく土方に、それでも矢央は嬉しいそうに微笑んでいた。
やはり女子、お祭りは大好きなのだろう。
「良かったですね、矢央さん。 楽しんで来て下さい」
「え? 沖田さんは、行かないの?」
善は急げと部屋を後にしようと立ち上がった永倉たちに続く矢央は、コテンと首を傾げる。
そんな矢央に沖田はニコッと笑い、布団から出られないことを主張していた。
「土方さんが寂しがるので、私は屯所に待機です」
「寂しがるわけねぇだろ。 俺は仕事がある」
「うふふ。 そうですね」
沖田自身が一番分かっているのだ、安静にしなければならないことを。
だが敢えて茶化してみせる沖田を、皆気遣うように笑っていた。
「じゃあ、行きますか!」
「矢央〜、早くしねぇと置いてくぞ」
藤堂と原田は永倉の後をついて部屋を出て行った。
障子の前で、一度立ち止まった矢央は振り返ると、
「お土産買ってくるね!」
と言い残し、手を振って三人の後を追いかけて行ったのだった。
「土方さんも素直じゃないですね? 矢央さんに、本当は一番お祭りを楽しんでほしいと思っていたくせに」
「うっせぇ…」
「ふふふ」
晴れ渡った空から差し込む日差しを眩しげに見上げた沖田は、いつまでも穏やかに微笑んでいた。
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