そして散々待った挙げ句、近藤は決断した。

午後十時頃、近藤隊・沖田、永倉、藤堂含め十名。

土方隊・斎藤、原田含め二十四名に別れ捜索が開始されたのである。





土方としては自分達の隊が当たるだろうと踏んでいたのだが、その予想は当たらなかった。



「ついてねぇのかついてんのか、どうやらこっちが当たりのようだな」


三条小橋西の旅籠池田屋がどうも怪しい。

表の灯りは消されたままで、普段なら灯りも灯り人の出入りがあるはずなのにあまりにも静かすぎて、まるで此処で会合がありますぞとでも知らせているようだった。


「分かり易い行動とるな」

「どうするよ。 近藤さん」

「うむ。 この場を押さえるのが妥当だな」

「「「てことは…」」」



近藤の背後で、沖田、永倉、藤堂の三名はにやけ面で顔を見合わせた。


振り返った近藤は、にっと口端を上げ「行くぞ」と告げる。



正面からは近藤、沖田、永倉、藤堂含め僅か五名で仕掛ける。

先に立った近藤は池田屋の戸を叩きつけ「夜分にすまぬが主人はおられるか」と声をかけた。

池田屋の主人は、怪しむ様子もなく「はいはい、お待ち下され」と戸を開けた。


その様子から、やはり今宵この場に浪士が訪ねて来ていると踏んだ近藤は、中途半端に開けられた戸を一気に押し開ける。


「なっ……」

「ふむ。 よく匂うな」


中に踏み込むと、表口に立てかけられていた鉄砲や槍を見て近藤は顎を撫でた。


「あれを、押収したまえ」


そして何事かと慌てたる主人・を一瞥したあと腰に差してあった刀を抜き放ち、声を張り上げた。



「会津藩主松平容保公お預かり新選組。 今宵、旅籠池田屋御用改めでござるっ!!」

「ひっ! …し、新選組ですぞぉぉっっ!!」


――――ザンッ!


階段を駆け上がろうと近藤に背を向けたところ、前へ飛び出した沖田の一撃の下に主人はパタリと倒れた。


飛び散った血が、沖田の白い顔にピチャリと血の花を咲かせた。


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