新選組隊士らは、討ち入りを誤魔化すために二、三人に別れ屯所を出て行った。

その装いも、出稽古にでも行くような身軽さだった。


各組長は自分の隊士らを見送った後、まるで散歩にでも行くように、また屯所を後にする。
彼らの甲冑や武器などは、観察方が予め集合場所に運んでいて、既に討ち入り準備は進められていた。



パタパタパタ……ドンッ!!


「うをっ! だ、誰だっ…て、矢央かよ?」


わらわらと人が集まる中で、ずば抜けて大きな原田を見つけると、矢央は遠慮なしに飛びついた。

「え、矢央ちゃん!?」


原田の腰に腕を回し、顔をうずめて放さない矢央と、困惑している原田の周りに人が集まる。

「おい、矢央。 俺たちゃ今急いでんだ、遊んでやる暇はねぇ…」

「…てきて」

「矢央さん、どうしたんですか?」


様子が可笑しいと気づいた沖田は、矢央の背丈に合わせ屈むと優しく話しかけた。

ぐっと、原田の腰を更に強く抱きしめ言う。


「みんな、元気で帰ってきてね!」


顔を上げた矢央の目に僅かに涙が浮かんでいて、彼女の気持ちを察した彼らは穏やかに微笑んだ。

原田は、腹にある矢央の腕をかじっと掴み放させると、体の向きを変え矢央を抱え上げる。


「だーいじょうぶだ、矢央! 俺達は、簡単にくたばるような奴らじゃねぇ!」

「だな。 知ってっか? 左之なんかな、腹斬っても死なねぇんだぜ! かくゆう俺様も、不死身だからな!」

「なぁに言っちゃってのさ、二人共。 矢央ちゃん、この僕が皆を守ってやるんだから、絶対大丈夫だからな?」

「私に勝てた試しがない平助さんがよく言えたもんですねぇ。 私は、近藤さんの許可がない限り死んでやるつもりはありませんよ」

「……つまり、誰も死ぬきはさらさらないというわけだ」


原田、永倉、藤堂、沖田、斎藤の順に矢央を励ましている。

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