話し合いがすんだらしく、隊士達の声が散らばり始めた。


ギシギシギシ……

足音が聞こえ、其方に目をやると甲冑を身に付けた土方が厳しい顔つきでやって来るのが見え、


「土方さんっ!」


慌てて土方に駆け寄る矢央。


「寝ていろと言っただろうが」

「だってっ…今から皆が…と思ったら、落ち着いて寝てられませんよ!」


もしかしたら怪我人、それで済めばまだ良い。

死亡者まで出るかもしれない不安に、いてもたってもいられない。

土方は小さく息を吐き、大きな手で矢央の頭を手荒く掻き回す。


「うひゃっ!」

「俺達をなめんじゃねぇよ。 お前が心配するような事は起きねぇ。 否、起こさせるかってんだ」


鳥の巣になった頭を直し、土方の瞳を覗き込む。

土方は、新選組を守ると目で語っているようだった。


「土方さん……」

「山南さん、あんたには屯所を守ってもらうぜ。 奴らが、古高救出のためがら空きになった屯所に襲撃をかけてくる恐れもあるからよ」

「分かっていますよ。 屯所のことは任せなさい」


珍しい光景に思えた。

土方と山南、特に仲が良くも悪くもないような印象を受けていた二人だが、やはり古くから知る仲なのか、こういった時には信頼を置いているようだ。


一つ頷いた土方は、また矢央に顔を向けた。


「もうすぐバラけて出動する。 その前に、あいつらに、その間抜け面見せて気合いいれさせてきな」

「間抜け面じゃないですっ!」

「十分間抜け面だぜ」

「あのね〜っ! もういいですっ、土方さんなんて、やられちまえっ!」

「ハッ。 そりゃ、食えねぇ冗談だ」

「うっ。 嘘です……。 元気に帰って来なかったら、肩もみしてあげないからね!」

「おう。 じゃあ、帰ってきたら嫌っつぅほど揉ませてやる」

「ふんっ!」


ドタドタと、女らしくない足音をたてながら廊下を走り去った矢央。


山南は、久しぶりに穏やかに笑った。

「まるで、兄妹みたいだ」

「ああ? あんな妹いらねぇよ」

土方も笑った。

互いにこれから起こる長い夜の不安を剥ぎ取るように………。

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