あれから更に三日が経過した朝、矢央はようやく外に出ることを許された。


まだ誰も起きていない早朝、蔵にやって来た土方。


扉のきしむ音に気付きつつも、瞼が重くて目が開けられない。

「矢央」


土方の声が直ぐそばで聞こえる。

六日も蔵の中にいて、一切喚くことのなかった矢央。

土方は二日が限界かと思っていたが、矢央は耐え抜いた。


「よく耐えたな。 もう処罰は終わりだ」


優しい声と共に、冷え切った体が温もりに包まれた。

土方の匂いがした。

どうやら土方が羽織っていた羽織りを着せてくれているらしく、矢央はお礼を言おうと無い力を振り絞り瞼を持ち上げた。


「ひじ…かた…さん…」


目の前で揺れる黒髪、揺れる体に違和感。


まだ早朝ということもあり、土方は寝起きなのか寝ていないのか髪は結い上げられていなかった。

長い黒髪が、矢央の頬を撫で、くすぐったさに身を揺すると。

「動くと落ちるかもしれねぇぜ」

そう言われてようやく気付いた。

土方に抱き上げられている。


「今、山崎が粥を作ってくれている。 暫くは休み、体力を戻すことに専念しろ」


可笑しなものである。

こうなるまで放置したのは土方なのに、こうも優しくされると変な気分だ。


とりあえず土方の部屋に運ばれ、敷いてあった布団に寝かされると、矢央は弱く首を振る。


自らの力で起き上がることすら出来ず、声もまともに出せない矢央。

土方は、耳を矢央に寄せた。


「よ…ごれます……」


六日も埃臭い蔵の中にいた体は汚れているから、布団に寝るわけにはいかないと訴えた。

が、土方は気にしないのか、何も言わなかった。


変わりに、布団脇に置いてあった水桶で手拭いを濡らし、矢央の額にかかる前髪を持ち上げると、濡れた手拭いで拭ってやる。


またまた驚きの行動に、目を見開き固まる。


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