原田とのわだかまりもなくなり、部屋の中は穏やかな空気に包まれる。


しかし矢央は、更なる難関が迫りつつあることに緊張の色は隠せない。


此処にいる三人は、幹部の中でも難しく考える方ではない面子だが、彼はそうはいかないだろう。


「そろそろ帰ってる頃だろうな」

穏やか空気を重い溜め息が壊す。


「そう緊張すんな。 あの人も、お前を心配してたんだ、悪いようにはしねぇさ」


体を強ばらせる矢央を宥めようと、原田はポンポンと頭を叩いた。

それでも多少の気休めにしかならず、俯く矢央の顔を藤堂は覗き込む。


「大丈夫。 僕たちがついてるから」

「……うん」

「…んじゃあ、行くか」


先延ばしにすることは出来ないからと、永倉は矢央に手を差し出し立たせた。

グイッと引っ張り上げた時に感じた軽さに、一瞬苦い顔をした。


見た目にはあまり分からないが、暫く離れている間に痩せたのだろう。


ただでさえ小せぇのによぉ…。



先を促し押した背中の小ささに、胸が痛む。


「お前らは此処にいてくれ。 大勢で押し掛けてもしゃーねぇからな」

「じゃっ、僕が…」

「平助! 此処は新八に任せとけよ」


先程一緒にいると言った手前、藤堂は拳を握りしめた。


血管が浮いた拳に、そっと温もりが重ねられる。

ハッと顔を上げると、目の前に微笑んだ矢央が藤堂を見上げていた。


「大丈夫です。 私、もう大丈夫ですから」


もう逃げないと決めたのだから。

緊張は隠せないが、矢央の瞳は力強さがあった。

藤堂はその瞳を見て、しっかりと頷き返す。


「此処で待ってるからね」


「うん」


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