「俺らだってな、何も平気で人を斬ってるわけじゃねぇ。 たまたま敵だったにすぎねぇ相手だとしても、相手を殺めるということは相手や相手の周りの人生を奪うことになる。 その覚悟は、そう簡単につけられるもんじゃねぇよ。

俺が初めて人を殺した時、恐怖に全身が震えた。 暫くは刀を握れなかった。 勇気とか正しいとか、んな理屈めいたこと並べたって一人の命を奪った恐怖には勝てねぇんだ。

それが命の重みだ。 あの時は、みんながその重みに耐えるため目血走って歯食いしばって、自問自答を繰り返して、たんだ」


人を殺めることに躊躇いがない者はいない。

しかし、一度刀を突きつけ合うば躊躇った方が死ぬ。

そんな暮らしの中で、矢央だけが恐怖に怯え逃げたわけではない。


皆恐れた。 己の体が血に染まるのを。

命の重さに耐えきれず壊れそうになった者も少なくない。


「俺らも、怖かったんだよ。 仲間が死ぬことも、自分が死ぬかもしれねぇことも。 今でも自問自答の日々だ。
だかよ、悔いても仕方ねぇんだ。 目指すもんのため、信じたもんのため刀を抜く、ただそれだけだ」


「そうだね。 本当にそうだよ。 目の前で人が死ぬ瞬間を見るのは、何度経験したって恐ろしいさ。 だけど、僕は仲間のために刀を抜く。 居場所を仲間を守るために人を斬るんだ」


「俺たちゃこれから、もっと大勢の血を浴びるだろうな。 でもよ、それは覚悟の上だ。 恐怖に耐えて、殺めた奴らに酬いるためにも逃げるわけにはいかねぇよ」


意外だったのは、三人の怖いという言葉だった。

人を斬る時、一切の躊躇いも見せない。
それどころか、笑みさえ見せていた彼らも恐怖を感じていたことに。


血を見るのが、人の死を見ることが平気なわけじゃなかった。
平気なふりをして強がっていただけで、一人になるとその恐怖に襲われていた。


矢央だけではなかったのだと、ようやく分かったのだ。


死の恐怖に勝つために、守るために刀を握り続けている。

そして、己の志のために戦い続けている。


「私も分かりました。 なんのために戦うのか、何を守りたいのか。 この時代での、私の生き方も」


すっきりした矢央の笑顔を見て、男三人も微笑んだ。


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