駆け抜けた少女【完】


それでも眠ることを渋る。


桂は此処で初めて溜め息を吐き、強行突破に出る。


―――――グイッ!


「うひゃっ!?」


目の前が回転した。


「色気がない声だなぁ」


先程は隣から聞こえて桂の声が、今は真上からだ。


唖然とし瞬きすら忘れた矢央は、はっと息を呑む。

起き上がろうと体に力を入れたが、不思議なことに布団に寝転ぶと力が抜けてしまった。


ふらふらと布団に横たわった矢央の髪を優しく指で掬うと、桂はクスと笑みを浮かべた。


「それだけ疲れが溜まっている証拠だよ。 そんなに力をいれなくても、君を取って食いはしないから安心して眠りなさい」


「桂さん―……」


何か言ってやりたかったのに、瞼が重く口が開かない。

そしてそのまま、完全に眠りの世界へ入ってしまった。


すーすーとリズミカルに寝息を立て始めた矢央から手を離した桂は、うむと一言唸り顎に手を添える。


――――スー………


「桂よ。本当に、その娘を信用していいと思うのか」


いつからそこにいたのか、気配を感じさせない声の主にゆっくりと顔を向けた。


「久坂か。 俺の前では気配は消さないでくれないかなぁ?」


大柄で彫りの深い顔立ちの侍。
桂と同じ過激派攘夷の久坂玄瑞である。

久坂は、眉を寄せて桂を睨んだ。


「ああ、この子ね? さあ、どうかな。 坂本君から預かったとはいえ、今は半信半疑ってとこだろうねぇ」

「坂本か。 あやつは、少しばかり人を信用しすぎて危なっかしいところがある」

「そうなんだよ。 俺のことも、最初から懐広げて歓迎したくらいだからねぇ」


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