「それは、新選組を裏切るということか?」


小さく首を左右に振る。


「裏切るんじゃない。 遠くで見守るんです。 彼らも、坂本さん達も」


矢央の出した答えは、新選組を離れ身の安全を保証してくれた坂本の傍にいることだった。


大まかな時代の流れを知る矢央は、新選組がこの先辿る運命も坂本が辿る運命も知っている。


「私は坂本さんにも新選組にも協力できない。 みんなが期待するようなこと、私には出来ないから」


新選組も坂本も、少なからず矢央を利用したいと思っていたはずだ。


未来を唯一知る少女、不思議な治癒力を持つ少女を。


だがその期待に応えられるほど、己を過信してはいない。


「新選組にいる方が、辛いということか」


大切だからこそ、彼らの傍にいたくないのだろうと坂本は苦笑い。

攘夷派を選んだのではなく、矢央は新選組といる辛さから逃げ出したのだ。


それは、彼らを大切に想うがゆえだった。


「わかった。 おまんは、佐幕も攘夷も何も考えんでいいぜよ。だがおまんにも、やってもらわないかんことはあるきに」

「あ、たしに?」

「ああ。 どうにも男所帯はかなわんきに。 女子として、おまんに力になってもらいたいぜよ」


坂本は優しく笑いかけた。


女手が足りない坂本らの、身の回りの世話をしてくれと提案する。


「桂さんの所へ行き、普段は彼らの世話をしてくれたらええ。 そいで、わしと桂さんの電通役になってほしいぜよ」


「電通役ですか?」


「わしは、ちと忙しいからの。 バタバタと動き回らなにゃならんきに。 だから、以蔵に託す文を以蔵から預かり、それを桂さんに渡してほしい。
それ以外は、おまんは何も関わらんでええぜよ」


どうだ(?)と問われた矢央は、暫く考えた後……


「―――分かりました」



と、大きく頷き返した――…。


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