温かい。


トクン、トクン、と規則正しい鼓動の音に耳をすませると、興奮した体が冷めていく。


「俺は、お前に悔いのねぇ生き方をしてもらいてぇ。 俺達は、悔いが残らねぇように、今出来ることを精一杯やってる。
だからな、今此処で決めろ。 お前が後悔しねぇ進み方を、お前自身が今決めろ」


猶予は、もう無かった。


永倉が矢央を匿える余裕も。

そして矢央が佐幕派か攘夷派につくかを選ぶ時間も、どちらも残された猶予は僅か。


龍馬からも、永倉からも、後がないと言われた矢央。


「もし、もしも攘夷派に行けば……私達は…」

「敵だ。 次にお前に会う時は、この手でお前を"斬る"」


酷いことを言いながらも、永倉の左手は震える矢央の頭を撫でている。


この温もりに、幾度も救われた。


時に厳しく、だが優しい温もりに。



「お前の好きなようにしろ。 出来る限りのことはしてやる」

「……どうして、私なんかに」


優しくしてくれるの?


裏切り行為をしたのにも関わらず、信頼を無くしているはずなのに。

どうして、この手は温かく優しいのか。


「……さあな。 ただ、仲間は見捨てねぇ主義なんだわ」


仲間と言ったその時、永倉の中であることが確信になった。

だがそれは、まだ言わない。

今は、その時ではないから。




「私は――――………」



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