「そうか、桂さんがのぉ」
思うとこがあるのか、龍馬は感情深げに名を呟いた。
そして、茶碗を置くと、真向かいに座る矢央を見やり問う。
「どうだった?」
「……どうって?」
何が(?)と、首を傾げた矢央。
龍馬は、少しばかり身を乗り出し興奮気味にまた問う。
「桂さんじゃ。 良い男だろう?」
良い男?
はて、と今一度桂という男を思い浮かべるが、矢央に与えた印象はただ一つ。
色男だが、にやりと笑い一癖ありそうな危険な男だ。
矢央の表情から、あまり良い感情を持っていたないと分かった龍馬は、眉をハの字にする。
「桂さんは、今の時代を動かすために必要なお人じゃき」
龍馬の真剣な言いぶりに、矢央はシュンとなり箸を置いた。
「それは、坂本さん達にとっての新しい時代に必要ってことだよね?」
「……そうぜよ。 新しい時代。 徳川の時代に終わりがくるぜよ」
徳川幕府の時代が終わり、新しい明治という時代が来るのは、そう遠くない。
だが新しい時代と共に、終わるものの中に彼等もまた含まれている。
「矢央。 ちょうど良い機会じゃき。 近い内に、おまんを桂さんに会わすつもりだったぜよ」
その機会を窺っていた龍馬にとって、これは好機ととれたのだろう。
だが、矢央の表情は暗い。
「新選組と長い間おったおまんには辛いことかもしれん。 だかな、新選組にいれば、おまんは必ず傷付くことになる」
必ず傷付く。
その言葉は、矢央に重くのしかかった。
今もじゅうぶん苦しい。
「矢央、わしはこれから江戸に向かう。 京には、頻繁に戻ってこれんかもしれん。
だから、おまんを桂さんに預けようと思いよるきに」
「えっ……」
「龍馬っ、それはどうゆう訳じゃっ? こいつは、此処に…わしらとおるんじゃなかったがかっ?」
以蔵も驚き慌てた。
ようやく矢央を受け入れ、仲間として共にいられると思い始めた矢先これでは。
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