矢央と新選組は繋がりがある。
今日、両者の関わりが自分が思っていた以上に深いことも知った。


それならば、いつかこの小さな少女はまた新選組のもとへ戻って行くかもしれない。


坂本龍馬が、"あいつは必要じゃき"と言っていたからこそ仕方なく矢央の面倒を見始めた以蔵。



「おまん、意外に怪力だったんだな?」

「いやいや、あれは火事場の馬鹿力ってやつですよ? 今、以蔵さんを持ち上げろって言われても無理ですよ?」

「そうがか?」


袖に腕を通し立ち止まると、以蔵は矢央を振り返りニヤリと微笑してみせる。


「なんですか? まさか、やっぱりどこか痛めましたっ?」


だったら何とかして担ごうと、腕捲りする矢央の額をコツンとこつく。


「いらん世話じゃき」

「で、でもっ!?」

「んなヤワな体には出来ちょらんき、気にするな」

「は…はあ……」



一人ブツブツと呟き着いてくる矢央の前を歩きながら、以蔵は遠くに見えてきた船宿を見て安堵の息をついた。


やっと帰ってこられた。


坂本から預かっている矢央を連れて、無事にとは言えないものの、ちゃんと帰ってこられたことが嬉しかった。


「おまんのおかげじゃき」

「ん? 何か言いました?」


以蔵の隣に並び、顔を覗き込んでくる矢央に向かい左右に首を振った。


「何もいっちゃおらんぜよ」


以蔵は、坂本の言った言葉を信じようと思った。

少し似た環境にいる、そして、弱そうでいて強い少女を信じようと。


「早く帰らんと、龍馬が心配するぜよ」


早く帰ろう。 仲間のもとへ。


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