「え?じゃあ桂さんは、最初から私の事知ってたんですか?」

「ああ、そうだよ」


何とか逃げ切った矢央と以蔵がいる場所は、二人を助けた桂小五郎が身を隠す宿の一つだ。


以蔵の怪我は手当てをして深手ではないと安心し、目覚めるまで休ませてもらうことにした。

その間、暇だろうと桂は矢央に茶と茶菓子を出してくれ、ついでと語り出したのだが、

その内容が意外なものだったために矢央の手が止まってしまった。


「ほらほら、茶を零してしまうよ?」

「だ、だって、まさかこんな広い土地で私を知ってる人に出会う確率って低いと思って」

「フフ。 普通はそうだろうね。 ということは、これは運命かな?」

「運命?」


コトッと茶を置いた矢央の手に、桂は冷たい手を重ねた。


暖かい…と、目を細める桂。


「俺と君は、あそこで出会うのが運命だったんじゃないかな」

「…………」


桂小五郎というこの男、見た目は土方に負けず劣らずの美丈夫だが、矢央は危険視する。


この人……タラシだ。 絶対、女好きだ!


「そんなに怯えるな。 俺は女子には優しいよ。 君の安全は保証しよう、坂本君の下に届けるまではね」


矢央が引いているのを怯えていると勘違いしたまま、桂は文机に肘を付き体制を楽にした。


そして、安心させようと坂本龍馬の名を出すと、矢央はハッとなり身を乗り出した。


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