「あの顔、どっかで見たよな」


消えて行く舟の上で、挑発しているのか此方に笑顔で手を振る男を睨む永倉。


「手配書通りだとすれば……あれは、桂小五郎ですかねぇ」


永倉の隣では、矢央に蹴られた脛を撫でる沖田がいる。

腕を組みながら、そんな沖田を見下ろした永倉。


「総司、お前、矢央ごと斬る気だっただろ?」

「そんなことありませんよ。 ただちょっと怖がらせたくなっちゃいました」

「はあ?」

「だって、あの顔で必死に岡田以蔵を守ろうとするあの子を見たら、心が震えて仕方なかったんです」


愛した少女と同じ顔で、己の敵を庇った少女に少し腹が立った。

と、同時に悲しくもなった。


「彼女は、どうするんでしょうね」

「さぁな。 ただ、厄介なことにはなったな。 なんであいつは、敵とばっか連むかね」

「引き寄せる魅力があるんじゃないですか? 彼女は」


ニコッと笑みを浮かべる沖田。
永倉は、小さく息を吐き出した。


「いいか、総司。 このことは今は誰にも言うなよ? あいつの居場所、本当になくなっちまうかもしれねぇからな」

「家には身内にも厳しいお母さんがいますからねぇ?」

「っっ! テンメェ…聞いてやがったなっ!」

「私は何も。 それより、疲れちゃいました、私は一足先に失礼しますねぇ」


からかえるだけ、まだ沖田には余裕がある。


一番隊を指揮して帰って行く沖田から、矢央が消えた先に目を向ける。


「……たくよぉ。 今回だけだぜ、見逃してやんのは」


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