駆け抜けた少女【完】


「以蔵さんも、大好きなんだね」
「………」


橋に置かれた拳に一層力が籠もった。


矢央は、此方に来てから伸びて邪魔になりつつある髪を指で摘む。


「この髪は、この時代では浮くでしょ? でもね、みんな綺麗だよって言ってくれた。 怪しいだけの私を、みんな可愛がってくれてね。
だからなんだ、みんなを失いたくない。 本当は優しい人達だから、傷付ける姿も傷付いた姿も見たくない」


そんな想いとは裏腹に、時代は急速に流れていく。


新選組の最終的な結末だけは知っている。

だからこそ、失う恐怖に耐えられない。


「それはね、坂本さんも以蔵さんも同じだよ。 欲張りかもしれないけど、私は関わった人達みんなが幸せになってほしい。 そんなの無理だって分かってるけどね」


目指す道が違うのだから、それは矢央がどうこう出来る問題でも、手を出していいことでもないことは分かっていた。


「綺麗事ぜよ」

「うん……」

「でも、わしはそんな綺麗事な時代が来たらええと思う。 そうしたら、また皆で普通に酒が飲める。 普通に喧嘩して、泥だらけになって、そいでまた酒を飲むぜよ」

「うん。 いいね、それ」



所詮叶わぬ想い。

そう分かっていても、願わずにはいられない。


「おまんは、おまんのしたいようにするがかええぜよ」


初めて見せた以蔵の笑顔だったかもしれない。

思い出す、この純粋な笑顔を見ると「守るから」と言ってくれた青年の優しい笑顔を。



長居はしちゃいけないなぁ。 じゃなきゃ、坂本さん達とも離れられなくなっちゃうよ。


新選組とは敵対する坂本たち。

分かっていても、居心地の良さはどちらも変わらなかった。



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