訳も分からぬまま安全な世から連れて来られ、この殺伐とした時代で生きることをかせられた少女はどうなのだ。


夢など見られるのか、目指す道がない中で生きることはできるのか。


こんな時代だからこそ、他人に導かれた道ではなく己で見つけなければならないのではないかと、土方は分かりづらいやり方で矢央の居場所を作ってやろうとしたのだ。



「ちゃんと気持ちは伝えないと、誤解を招きますよ。 永倉さんとは、未だにあれなんでしょう?」

「誤解なんかじゃねぇさ。 利用しようとしたのも確かだ。 永倉も藤堂も、あいつ等なりの守り方ってのがある。 それが違うから、ぶつかりもする。 人間らしいじゃねぇか? 迷って、けれど突き進むしかねぇってのは分かってんだよ」


だから、誰も新選組を出てはいかないのだ。


迷いながらも、信じた誠は揺るがないものだから。


「総司、そういうテメェこそどうなんだ」

「どう…とは?」


ずっと月ばかり見つめていた沖田。

土方は、少女も気がかりだが弟のように可愛がっている沖田こそ気になる。


沖田こそ迷う立場にある、と。

「あはは、やだなぁー。 なんですか、その顔は?」

「生まれつきだ、わりぃか」

「悪いですねぇ。 全て見透かしているような、そんな眼で私を見ないで下さい」

「だったら、決めろ。 お華をとるか矢央をとるか」

「……やっぱり嫌だ。 いっそ、心などない鬼になりきれたら、どんなに楽なんでしょうかね」

「鬼にも、心はあるさ」




静かに笑った土方と沖田。


沖田もまた、決断しなければならない時が近付いていた――。

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