「つくづく損な役回りですね? 鬼の副長さんというのは」


文机に向かったままの土方に、そう言葉を投げた沖田。

シーンと静まり返った室内には、行灯の灯りがゆらゆらとゆらめく。


「ねぇ、土方さんは、こうなることを予想していたのではないですか?」

「何が言いてぇんだ?」

「う〜ん。 私は難しいことは分からないから、近藤さんや土方さんの言われることは正しい事だと思ってますよ。
あなたは、間違っちゃあいないです」


ですが……と、言葉を濁す沖田。


矢央だけを特別扱いするわけにはいかない。

もしそんなことをすれば、なんのための局中法度なのか怪しくなるではないか。


「平助さんも、悪気があってではないですよ。 矢央さんが、間者ではないと分かってはいるんでしょう? ですが、ああするしかないのが、土方さんの立場というものでしょう」

「………」


まだ少し痺れた右手首を黙って見つめる土方。


脱走者扱いをすれば反感を買うであろうことは分かっていた土方は、一番に藤堂を気にかけた。


予想は当たり藤堂はやり場のない怒りを土方にぶつけて行った。


気が済むのなら、それでいい。
だがしかし、決定は覆さなかった。


「惚れたはれたの話しじゃねぇだろうが……」


矢央を守ってやりたかった。
居場所を求めてる少女に、居場所を与えてやりたかったからこそ、土方は入隊させた。


局中法度がありながら矢央自身に選ばせたのは、矢央自身に居場所を見つけさせたかったからだ。


「土方さんは、だから誤解を招くんですよ。 可愛くて仕方のないくせに?」

「うっせぇ。 可愛いんじゃねぇ……可哀想で仕方ねぇんだよ」

近藤にも土方にも夢がある。 沖田にも永倉等にも目指す道があって、此処に集まっている。
だからこそ、過酷な運命を辿ったとしても耐え抜く覚悟がある。

だが少女はどうだろうか。


.