その後、女性から龍と名乗られた。坂本は「同じ、龍じゃき!」と言って、此処での世話は龍がするとも言った。


「それでな、矢央」


坂本は、また真剣な眼差しだ。

調子が狂う男だな、と矢央も坂本を見る。


「今、この都が危険なんは、新選組におったおまんなら分かるか?」


八月十八日の政変以降、攘夷派浪士の姿は表側には見かけなくなったが、未だに攘夷の火は尽きない攘夷派は京都の至る所にその身を潜ませている。

そして、いつかの日のため策を練りチャンスを今か今かと待ち望んでいるのだ。


それらを取り締まるためにいる新選組。

その中心で数カ月暮らしていた矢央は、ある程度の知識は身に付いていた。


「坂本さんも、確か…以蔵さんもみんなが捜してました」

「そうか。 そうじゃろな、わしらと新選組は敵対関係なんは確かぜよ。 だかな、前も言った通り、同じ日本人同士で争うことはバカらしい。 だからわしは、他のやり方を見つけたじゃき。
わしは日本の中で小さな争いをする暇はないきに、新選組と関わるきもない。 だがおまんは違うぞ! おまんは、この醜い争いを嫌っちょる。 仲間同士、日本人同士の斬り合いなどバカらしいと思っちょる」


確かにそうだった。

難しいことは分からない。

日本がどんな状態にあるのか、新選組と彼らがどんな関係性にあるのか、はっきり言えば興味すらなかった。

ただ思うことは、坂本とどこか似ていた。

坂本は日本人は日本人として皆力を合わせるべきだと訴えている。

矢央は、日本とか外国とか関係なく人間同士が争う醜い姿をどうかと考えていた。


「仲良く…出来ないんでしょ?」

「それは今は無理ぜよ。 攘夷や倒幕や佐幕やらで日本人はばらけちょる。 けんどな、いつかは分かってるくれるきに、そのために今やらなあかんことが、まっこと沢山あるぜよ。
そのために、わしは一つの場所にあまり長居はできんきに、だからの、おまんはこれから以蔵と共に過ごしてくれんかの?」

最後の方は、何故か小さな声で聞いてきた坂本。


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