「……おまんみたいなガキに、なんがわかるがかっ…。わしは、わしはなぁっ」
「分からないよ。 此処に来て、私はみんなが全て正しいと思ってた。 だから、みんなに着いて行けば大丈夫だって思ってた。 だけど、色んなことがありすぎて何が正しいのかわからなくなった」
天井を見つめる瞳は、色をなくしてさ迷った。
そんな矢央の言葉は、今の以蔵の心に強く響いた。
岡田以蔵は、今や京ではお尋ね者の人斬りと言われ恐れられていたが、その心は純粋なものだった。
坂本も一時所属した土佐勤王党こそ、本来以蔵がいるべき場所。
土佐勤王党は、攘夷信仰が強い過激集団の一つ。 その頂点に立つ男、武市半平太という男を慕っていた以蔵は、武市の言われるままに人斬りを続けた。
人を斬ることに躊躇いも恐怖も罪悪感もあった。
これが武市のためになるのかと、頭を痛め続けた。
だが人斬りを続けてきたのは、ただ武市を信じた以蔵の純粋さにある。
武市の言うことに間違いなどない。 彼を信じ着いて行くことが、己の使命で歩む道なのだと信じて疑わなかったのだ。
だがそんな武市のもとに以蔵の居場所は次第になくなっていく。
「以蔵と矢央は似たもん同士じゃな」
仲間を純粋に信じた二人は、今や仲間を信じてきたことが間違いかもしれぬと悩みを抱いた者同士。
お互いに見つめ合い、言葉を詰まらせた。
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