「く…楠さんは……?」
「あん男なら、おまんに会わす顔がない言うて二日前に此処を去った。 おまんに言伝があるぜよ」
矢央の髪を撫でながら、坂本は言った。
「ありがとう。 君に助けられた命は無駄にしない。とな」
また、ぶあっと涙が溢れた。
助けることが出来た。
救いたかった命を、今度は助けられたのだと、喜びに涙を流した。
「…良かっ…た。 わ…たし、助けたくて…仲間とか…敵とかどうでもよくて……っ…。 ただ、死んでほしくなかった。 もう誰かが死ぬ…の見たくないっ」
「大丈夫じゃ。 あん男は、大丈夫」
泣き喚く矢央を坂本はあやし続ける。
楠からも事情を聞いていた坂本は、矢央がどれほどの心の傷を抱えているか察しがついた。
矢央が負った傷も、矢央から聞いていた力によるものだとも分かっていたのだ。
致命傷だったはずの深手だったが、矢央だからこそ死なずにすんだのだと。
「おまんは立派じゃよ。 わしらは、一人の命を絶やすことは容易いんじゃ、だが一人の命を守ることほど難しいことはないきに。 特に、国のために生きようとしている奴らこそ救うのは難易な事ぜよ」
坂本も故郷で救いたかった友を救えなかった。
国の未来のために動く男達は頑固者が多い。 わしもその一人じゃがなと、苦笑いする。
「でも…私の考えは甘いってわかってます。 大好きな人達をみんな守りたいって、欲張りなんだって……」
所詮難しいことだと重々承知していた。
しかしそれでも、戯れ言だと言われようとも彼らを守りたいと思ったのだ。
「……おまんの言ってることは、所詮綺麗事じゃ」
かすれた声が、二人の会話を中断させた。
坂本は、その男を以蔵と呼んだ。
「以蔵、よすぜよ」
「龍馬、そんな得体の知らぬ女の戯れ言は頭にくるぜよ。 何が皆を守りたいじゃっ、そんな細腕に何が出来るがか……。 わしは、おまんみたい綺麗事ばかり言う奴らは嫌いじゃ!」
「以蔵っ!」
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