「ほらの、また会えたぜよ。矢央」
――――ドクンッ!
覗き込む坂本の笑顔が、矢央の冷え切った胸に染み込んでいく。
それは日溜まりのようで、矢央は知らず知らずに涙を流した。
そんな矢央の涙を指で救いながら、坂本は枕元に置いてあったある物を手に持った。
ユラユラと揺らめくのは、坂本と初めて会った時に買ってもらった赤色の結い紐だ。
「覚えとるがか? これが必ず又おまんと、わしを巡り合わせると言うたのを」
坂本と言葉を交わした時間は、矢央がこの時代で過ごした時間の半分にも満たないはずなのに、どうしてだが心が休まる。
「何があったぜよ? おまんは、壬生狼のもとにおって辛い思いをしたんか?」
傷ついた表情の矢央を見て、坂本の目の奥には燃えるような火が灯る。
あの時、坂本は矢央を連れて行きたかった。
だがしかし、矢央がそれを望んでいないと分かり無理して連れ去るのは止めたのだが、このような傷ついた少女と又出会うと知っていたならば……と後悔していた。
「おまんを抱えた若い男と出会ったんは三日前じゃ。 男も衰弱しとったき、わしが匿ったが、おまんの方が深手を負っとったきに、わしゃ心配で心配で」
涙を流すばかりの矢央に、優しくこれまでの経緯を話し始めた坂本。
雨の中、泥まみれの楠と傷を負った矢央を偶然に見つけたのは坂本だった。
楠は矢央を知っていると言った坂本ならば、矢央を託せると安心して意識を手放したのだ。
その後、ずぶ濡れになって二人を連れ帰ったのは坂本が贔屓にしていた寺田屋である。
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