屯所の外に出た矢央が見たのは、槍を肩に担いだまま突っ立っていた原田の後ろ姿だった。
「原田さん……」
切れる息を整えながら見たのは、原田の槍の先。 赤黒いものが付着したそれ。
間違いなく、あれは人の血だった。
「原田さんっ」
声をかけても原田は振り返ろうとしなかった。
矢央がいるのも分かっている、自分に何を聞きたがっているのかも分かっている。
矢央は原田の先に眼を凝らす。
一面に広がるのは水菜畑。
ダッと駆け出し、原田の横を通り抜け眼にした景色は悲惨なものだった。
「楠さんっ!?」
口元を押さえ、悲鳴を上げた。
水菜畑に落ち横たわる楠が其処にいたのだ。
一撃くらい、血が溢れ出す。
原田がやったのは一目瞭然だった。
「…どうしてぇっ…どうしてぇぇぇっ!」
ギリリッと歯を食いしばる矢央、砂を掴み原田に投げつける。
それを避けることなく、原田は矢央の前にたつ。
「お前は、本当に見なくていいことばかり見やがるな。 それで、また止めに来たつもりだったか?」
「…そうですよっ。 殺さなくたって、他に方法が…」
「あるわけねぇだろ。 こいつは間者だからな、近藤さんの命で新撰組として裁いたまでだ」
原田の冷たい視線が突き刺さった。
普段は気さくで優しいはずの原田も、人を殺した後までは笑わない。
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