―――――いない。
何処を捜しても楠を見つけることが出来ず、苛立ちが襲う。
はぁはぁと息を切らし、次は何処を当たればいいかと考えていた時に、その人物は現れた。
音もなく近付く気配。
これは間違いなく"来る"と感じた。
「いるんでしょう? お華さん」
矢央は背後を振り返らない。
「よくわかったわね。 矢央さん」
「分かりますよ。 あなたの気配だけは」
「そうよね。 あなたと全く同じだものね」
何も言わず振り返った矢央。
お華は、にっこりと此方に笑顔を向けている。
―…あんたが、芹沢さんをっ!
「相当私に怒っているようね。 それでいいの、あなたは私を嫌えばいい、そうすれば」
「どういう意味?」
睨みつけるが、お華はそれ以上は言わない。
いつもそう、肝心なことは話さない。 そんなお華に苛立ちを覚える。
「それよりも、お捜しの方は見つかりました?」
「……やったの? またあんたが」
「いいえ。 今回の事は、なるようにしてなったこと、私は一切関与していないわ。 だからね、あなたがどうしても彼を助けたいなら居場所を教えてあげようと思って」
そう言うと、お華は指を指した。
指した方向は屯所の外になり、矢央は下駄をはくのも忘れ庭に飛び出していた。
お華も気にはなるが、優先させるのは楠の命だと判断したのだ。
「ウフフ。 壊れてしまうかしらね?」
不気味に笑うお華は、また形無く消え去った――――。
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