その話を聞いたのは朝餉の片付けをしていた時だ。
「おい、聞いたか? 荒木田達がやられたそうだぞ」
「本当か? そういえば、あいつ最近様子がおかしかったもんな」
「ああ。 どうやら、長州の回し者だったそうだ。 永倉先生に奇襲をかけたらしいぞ」
「なんと! 永倉先生にか……」
矢央の手は止まっていた。
永倉という名前や、間者という言葉で誰が出した命令で荒木田等がやられたのかわかった。
また人を殺した……。
矢央はいたたまれない思いから、奥歯をグッと噛んだ。
そして、矢央はまた楠の顔が脳裏に浮かんだ。
まさか楠も殺されてしまったのか?
隊士達が通り過ぎた後、矢央の姿は其処にはなかった。
やはり分かっていて何もしないというのは出来なかった。
芹沢の時みたいに、また知り合いがみすみすやられるのを見るのは懲り懲りなのだ。
ダメだってわかってるよ。
新撰組の敵を助けたいと思うことが、ダメだってことくらいわかってるよ!
でも…でも、楠さんは……。
楠とは隊士の中で一番接する時間が多く、歳も近いのがあって色んな話をした。
故郷の話、家族の話、そして間者とは思えない、近藤や芹沢を想う話などもした。
あの時の楠の笑顔は、矢央にはどうしても嘘には思えない。
近藤の人を惹き寄せる魅力や、芹沢の圧倒的な強さは尊敬に値すると楠は話した。
話し合えば、楠の命を助けることができるかもしれない。
確かに長州の間者かもしれないが、もしこちら側につかすことが出来ればの話だったが、矢央はその小さな可能性に一人の命を救いたい想いをかけて、楠をさがしまわった―――…。
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