浅い呼吸を繰り返す矢央を、土方は真っ直ぐ見つめた。


壊れるなと、その双眸が訴えている。


「忘れろ。 あの人は、お前を恨むほど小さな人間じゃねぇ」

「……でもっ……でもっ…」


苦しくて仕方ない。

償いきれないのだ。


芹沢にとどめをさしたのは事実上は沖田だったが、矢央が致命傷を与えたのは変わりがない。
それなのに、芹沢に未だ別れを告げられていないのだ。


矢央にとって芹沢は怖いだけの存在ではなく、時に優しい一面も見せられた。

芹沢は矢央のことを深く追求することもなく、面倒を見ると言ってくれた相手だ。


悪態をつく矢央を叱ることもなく、ただ笑って「ガキ」と言った姿が脳裏に浮かぶ。


そんな芹沢を追い込んだのは、自分の意志ではないにしろ自分なのだと、心が苦しすぎる。


「強くなれ。 お前は此処で、新選組で生きていくと決めた。 だったら強くなれ、自分の中に住まう鬼に勝てるくれぇ強くなれ」


自分の中に住まう鬼。

矢央は、心底驚いた。

土方がお華を鬼だと表現するとは思わなかったからだ。


妹のような存在だと言っていたのに……。


「一人でも生きていけるくれぇに強くなるんだよ。 自分に負けるんじゃねぇ。 だから、今回のことは忘れろ」

「ウッ…ヒクッ…ひじ…方さんっ」

土方の不器用な優しさに、少しだけ救われたような気がした。

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