鋭い双眸の奥に微かにチラつく穏やかな光があるように見えた。


心配してくれている? と、矢央は胸を押さえた。


「あれはお前がやったんじゃねぇ……とは言わねぇ。
紛れもなくお前が斬った、それが誰かの仕業だとしても、体はお前だ。 だからこそ、痛みがお前自身を襲ってるんだ」


土方は慰めの言葉を言わない。

だが普段よりは優しい物言いだった。


「忘れるこったな。 人を斬る度、その重みに打たれてたら……お前、死ぬぞ」


それが人の命を奪う恐怖だと、土方は以前沖田にも同じことを言ったなと思い出した。


「私は、これから誰かを斬るつもりなんてないです」


忘れろと言った土方。

だが矢央は忘れてはならないと思っている。


どんなにあの日のことに苦しんだとしても、人を傷付けた代償として忘れてはならないと。


「斬るつもりなんてない…ねぇ。 んなもん、此処にいる限りどうなるかなんて分からねぇぞ。 テメェの命はテメェで守ってもらわにゃ困るんでな」

「…っ…分かってますよっ。 自分のことは自分で守るつもりです! でも、もう誰かを傷つけたくない!」

「えらい綺麗事だな。 今までお前が自分で守ると言った命のために、誰かが誰かを斬ったことを忘れたか?
テメェは斬らねぇが、誰かになら斬ってもらって構わねぇのか」

「違うっ! 私のせいで…誰かが傷つくのを見たくないっ…」



矢央は溢れそうになる涙を止めたくて、両手で顔を覆った。


その両手に大きな手が触れた。

細い肩がピクリと揺れた。


「矢央、よく聞け。 そして受け入れろ」

震える細い手首を掴み、土方は矢央の顔を上向かせた。


「死に恐怖を抱かねぇ奴はいない。 だからこそ、戦える。 守るために斬る。
ここにいる奴らは柔にできちゃいねぇからよ、お前に傷つけられる奴はいねぇよ」


力の抜けた手を床に落とし、土方はボロボロと涙を流す矢央の両頬をゴツゴツとした掌で包み込んだ。


互いに息がかかる距離だ。


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