長い眠りから目覚めた矢央は、静かに部屋を見渡した。


ずっと世話を妬いていた永倉や藤堂は、また暴れやしないかと唾を呑んだが、矢央は暴れることはなく代わりに

「お腹すきました」と、笑顔を浮かべたのであった。


数日寝ていた矢央は、喉に詰まらせながらも大量に食べ物を欲しがった。


ただ無心に食べ続けていたかと思えば、咄嗟に立ち上がり土方の下に走っていった矢央は

「お風呂に行きたいです!」と、土方に銭湯代をせがみ、一人出掛けて行った。


帰って来た矢央は休んでいた分、沢山働きますと張り切っていた。


それから三日、矢央は無我夢中で働きまくる。


それはまるで、休む暇がほしくないかのようで、痛々しいものがあった。



「矢央君、どうかな。 今から散歩に行かないかい?」

「……散歩から帰ってきたばかりじゃないですか?」


気を利かせたつもりが裏目に出た。


「大丈夫ですよ。 私、誰にも言いません。 言えないですから」

その言葉が山南に重くのしかかる。


芹沢暗殺がこんな形でも苦に残るとは思いもしなかった。

あれは仕方のないことだった。
松平容保の命だったのだから、芹沢暗殺をいつまでも悔やんでも仕方ないが、それにまさかこの幼い少女が関わるとは誰が思おうか。


「矢央君……」

「あれ、土方さんだ」


庭で立ち話をしていた三人の先に、縁側からこちらを睨む土方の姿があった。


「矢央。 ちょっと顔を貸せ」


矢央が振り返ると、土方は顎でついて来いと言うが、冷めた眼で見ていた矢央のとった行動といえば、


「いだだだっ。 無理です、土方さん。 顔は貸せません」

自分の頭を掴み引っ張った後、真面目な表情で当たり前のことを言ってのけた矢央。


三人の表情が固まったのは言うまでもない。



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