目から止め処なく溢れ出す涙。
髪を乱し暴れる体。


尋常じゃない様子に誰もが悟った。
矢央が戻ってきたのだと。



「いやぁあぁああっ! やっ、やあああっっ!」

「矢央さん! しっかりなさいっ」

「ウヴッッ…アァ…イヤァッ!」


鼻孔を襲う鉄の匂い、体中に張り付く血、確かに残る肉を抉った感触。


全てが矢央を正気ではいられなくさせた。


覚えている、何もかも。

稲妻が落ちた瞬間、スッと何かに引きずられる感覚に襲われた。

気がつけば真っ暗闇の中、何も見えないのに感覚だけはハッキリとしていた。


だからこそ覚えていた、自分がお華に体を乗っ取られ自分の手で芹沢を刺したことを。


「気持ち悪いっ……うぇっ…ウヴッ」


刺した

刺した

刺した

刺した


「いやぁぁあああああっ!!」

「矢央っ! 総司っ、矢央は俺達に任せろっ」


芹沢に注意がいき、矢央を抑えきれない沖田に原田が言う。

こんな状態の矢央をいつまでもこんな血生臭い場所に置いておくわけもいかないので、沖田は矢央を原田に預け、刀を握りなおした。



「さようなら、芹沢さん」

「グッッ……」

「止めておくれやすっ!」

「今度は誰だっ、チクショッ!」

邪魔ばかり入り、土方の苛立ちは最高潮だ。


芹沢を庇い前にいるのは、芹沢の妾のお梅だ。

さすがに騒ぎが大事になり、かけつけたのか。


「総司、やるしかねぇ」

「わかってますよ……」

「鬼っ……あんたこそ、ほんまの鬼やぁっ」

「………」



――――ザシュッ!

沖田は容赦なく、お梅ごと芹沢を突き刺した。


お梅の白い肌に、口から零れ落ちた血がドロリと流れる。


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