―――――その瞬間。
「きゃっ…!?」
グイッと力いっぱいに肩を引かれ、矢央は藤堂に抱きしめられていた。
藤堂の胸に左頬を預ける格好に、さすがの矢央も驚く。
背中に回された腕に、グンッと力がこもり若干息苦しい。
「矢央ちゃんの事、必ず守るから……」
心なしか不安気な声。
「出来るなら、もうあの力は使わないでほしい……」
「…あ、あの力?」
それは矢央の不思議な力のことを示す、他人の怪我を治す能力だと初めこそ思ったが、あれはたんに矢央に怪我を移しているだけにすぎない。
その証拠に治りは早いものの、怪我に苦しむのは矢央なのだから。
矢央が一番初めに、怪我を背負ったのが藤堂だ。
あの時程、悔しい思いを味わったことはなかった。
「重傷を負った人がいたら、君がまた代わりになるんじゃないかと思うと不安で堪らない。
だから、一人で何でも背負うような真似はしないでくれよ」
藤堂の温もりが、冷え切った心に染みていく。
ドキドキと心臓が鳴る。
グッと着物を掴んだ矢央の小さな手を、上から藤堂の手が包み込んだ。
「…………ありがとう」
藤堂の優しさに、一言そう告げた。
しかし、藤堂の問いには一切答えはしなかった。
約束なんて出来ないからだ。
いつでも気遣ってくれる優しい青年や、大切な仲間が負傷して、それがもし命に関わるような場合、矢央はきっと代わりを自ら進んでやるだろう。
自分でそうするとわかっていて、約束なんてできるはずがなかった。
「私、精一杯医学の勉強するから……藤堂さんが安心して戦えるように、私いっぱい頑張るから。
私も、藤堂さんを守りたいもん」
「……矢央ちゃん…」
フウと盛大な息を吐いて、ギュッと抱きしめ直す藤堂。
矢央には見えなかった。
ほんの少し唇を動かし
―――そんな君だから、好きなんだよね……
と、切なげに呟いたのを。
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